2011-01-03

アキュメンファンド投資先:1298について

   NYで2か月間研修を受けた後、11月半ばからインド・ムンバイに拠点があるアキュメンファンドの投資先「1298」で働いています。ムンバイでの生活に慣れたかと思ったら、12月は8割方出張していて、なんだかあっという間に2か月が過ぎようとしていることに気づき驚いています。

1298が進出しているインド各地での体験には追々触れるとして、まず全体像をご紹介しておきます。

Ambulance for All を合言葉に、5人の起業家によって2004年に救急車2台で設立された営利企業。急速に規模を拡大し、現在従業員約1,500人、救急車は500台を目前にしています。

ちなみに、1298 (英語ではそのままOne two nine eightと読みます)というのは正式な会社名ではありません。この会社が使っている救急車の呼出し番号(日本だったら119)が1298なので、ブランディングの都合上、1298を多用しています。ただし、口述するように、1298番以外の番号でのサービスも始めているので、最近は正式社名Ziqitza Health Care Ltd.(ズィキッツァと読みます)を目にすることが増えてきました。

Ziqitzaの救急車サービスは大きく2つに分けられます。

1)単独民間事業・・・Dial 1298 for Ambulance

同社単体で民間事業として救急車サービスを提供。個人あるいは病院からの呼出しを受け、出動します。救命救急に限らず、転院等の緊急ではない患者の移動にも対応。(サービス名にEmergencyが入っていないことに注目。)有料制。特徴は価格体系。救急車のタイプによって2種類の価格があり、さらに患者の経済力によって2種類の価格が設定されています。(ALS: advanced life support, BLS: basic life support)


ALS
BLS
私立病院
      
      
公立病院
      
      
事故
無料

患者の経済力をどのように判断するか。これは、患者が指定する行先の病院が、私立であれば全額請求、公立であれば割引額を請求、という仕組み。インドでは公立病院は無料だがその分クオリティが悪く、お金に少しでも余裕のある人は私立病院を選ぶという事情を踏まえて設定されたとのこと。ちなみに事故の被害者は無料で搬送されます。

 現在はムンバイ市、ケララ州コーチン市で稼働しています。2008年11月26日のムンバイテロでは、1298の救急車がTajホテルにいち早くかけつけ、ホテル内から生存者を救出する様子がTVにも映っていました。


2)州政府とのPPP(官民連携)・・・Dial 108 in Emergency

インドでも徐々に州政府が救急車派遣体制を充実させようとしつつあります。中央政府から割り当てられるNational Rural Health Mission (NRHM)の予算を使っていることが多いようです。Ziqitzaもいくつかの州で入札を経て契約を勝ち取りました。(賄賂・汚職と戦う姿勢を貫く、といった意味で同社の姿勢は注目を浴びていたりもします。)

こちらは名前のとおり、Emergency(緊急)時のみの対応。1298で行っているような転院などの緊急以外の患者搬送は行っていません。呼出し番号は108。(政府だと3桁の番号が使えるんですね。)
救急車導入台数は州によってまちまちです。

州政府からの受託状況
稼働台数
サービス開始
ケララ州
(トリヴァンドラムのみ)
25台
2010年5月
ビハール州
55台
2010年9月
ラジャスタン州
189台
2010年7月
パンジャブ州
150台
2011月3月予定

どの州も今後さらに救急車を補充することを計画しているそうです。ラジャスタン州は2012年までに450台まで拡大すると表明しています。

さらにサービス体系も州政府が決めるため、州によって異なります。例えば、ビハール州では、利用者も費用を一部負担します。その他の3州では完全に無料です。また、救急車の装備にも若干の差があります。

州政府の契約を獲得するメリットは、(1)固定した収入源の確保、(2)自己資金による設備投資不要(契約による)、(3)農村部へのサービス提供が可能になる、といった点です。

もちろんこれですべてがバラ色になるわけではなく、苦労も伴います。(まず入札から契約に至る過程には大変な苦労がありそうですが、現時点では私はまだよく理解していないため、この件については別の機会にします。)まったくのゼロから一気に100台以上の運営を立ち上げなければならないし、政府相手の折衝や報告は労力を伴います。時間もかかります。一方で契約期間は2,3年のケースがほとんどのため、常にその先を気にしていなければならない。

オペレーションレベルでは、やはり人材育成が大きな課題です。救急車の運転手はトラックの運転手とは違います。人の命を預かる者として、高い倫理感と品質へのこだわりが求められます。ただ、みんながみんなそういう意識を持っているかというと、なかなか難しい。しかも遠隔地担当の救急車となれば、マネージャーが運転手らスタッフと直接顔を合わせる機会も限られます。この課題については、今後私も深くかかわることになりそうなので、引き続きレポートしたいと思います。

以上、まずは私が9か月間働くアキュメンの投資先「1298」の概要でした。

ムンバイで稼働中の救急車

ケララ州政府とのPPPによる108救急車。運転手、救命救急士と。

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